【2026年5月EC業界トピックス】
2026年のEC業界において、利益構造を大きく左右するテーマとして「返品率の上昇」が挙げられます。特にアパレルおよびD2C領域では、返品は例外ではなく“前提”として扱われるケースが増えており、従来の売上中心のKPI設計では実態を正しく把握できない状況が生まれています。
当社が2025年〜2026年にかけて支援したEC事業者(アパレル・雑貨・美容系含む)における実測データでは平均返品率は18.7%、アパレル領域に限定すると最大で34.2%**という結果となっています。特に価格帯が5,000円〜15,000円のゾーンにおいて返品率が高く、「サイズ不一致」「イメージ差異」が主な理由として確認されています。
さらに重要なのは、返品が利益に与えるインパクトです。同データにおいて、返品率が20%を超えたタイミングで営業利益率が平均6.8ポイント低下する傾向が見られました。これは単なる売上減少ではなく、以下の複合コストが影響しています。
- 往復送料および決済手数料
- 再検品・再梱包の人件費
- 在庫再投入までのリードタイム増加
- 値引き再販による粗利低下
実際の支援現場においても、「月商は伸びているにもかかわらず利益が残らない」という相談の多くが、返品率の上昇に起因しています。特にモール依存型の事業者では、広告費と返品コストが同時に増加し、利益構造が急速に悪化するケースが目立ちます。
では、なぜここまで返品が増加しているのでしょうか。複数の事業者データを横断分析した結果、現在の返品増加は「消費者行動」と「販売側施策」の両面が影響していることが分かっています。
まず消費者側では、「複数サイズ購入→不要分返品」という購買行動が定着しています。特にスマートフォン経由の購買では比較検討の手間が低く、試着感覚での注文が一般化しています。
一方、販売側では送料無料・返品無料の常態化が影響しています。当社データでは、「返品無料を導入している企業は、未導入企業と比較して返品率が平均1.6倍高い」という結果が出ています。短期的なCVR向上には寄与するものの、中長期的には利益を圧迫する要因となっています。
こうした状況を踏まえ、現在成果を出している企業は「返品削減」ではなく、「返品最適化」という考え方へシフトしています。
具体的な成功事例として、あるアパレルEC企業では以下の施策により返品率を改善しています。
- サイズガイドの刷新(レビュー連動型)
- 着用動画の導入
- 「サイズ不安ユーザー向け導線」の設置
この結果、返品率は28.4%→19.6%へ改善し、営業利益率が約5ポイント向上しました。特に効果が高かったのは、「実際の購入者データを反映したサイズ提案」であり、曖昧な表現ではなく具体的な指標提示が重要であることが確認されています。
また別の事例では、返品プロセスの見直しにより収益改善が実現しています。具体的には、返金方法として「現金返金」と「ポイント返還」を選択制にしたところ、約42%の顧客がポイントを選択し、キャッシュ流出の抑制とリピート率向上に繋がりました。
さらに、返品理由のデータを分析した結果、「想像より生地が薄い」という意見が多かった商品について、商品ページの表現を改善したところ、該当商品の返品率が約30%削減されるなど、データ活用による改善効果も確認されています。
現在、先進的なEC事業者の間では「返品データ=最も価値の高い顧客フィードバック」として位置付けられています。売上データだけでは見えない「購入後の不満」や「期待値のズレ」を可視化できるため、商品開発や仕入れ精度の向上に直結するためです。
今後のEC運営においては、KPI設計そのものの見直しが不可欠です。売上やCVRだけでなく、
- 実質利益(返品後ベース)
- 返品率
- 再販リードタイム
といった指標を組み込むことで、より実態に即した経営判断が可能になります。
結論として、これからのECは「売る力」だけでは不十分です。「売った後」をどれだけ精緻に設計し、コントロールできるかが利益を左右します。返品はコストではなく、改善の起点となる重要データです。この認識を持てるかどうかが、2026年以降のEC事業における競争優位を決定づける重要な分岐点となるでしょう。